長崎の剣道

目次

雄心舘を経験して

                                       五島 功

僕は、カナダで生まれ、6歳から14歳までアメリカで育ちました。

日本には殆ど来たことありませんでしたが、家でよく衛星放送で N H K の大河ドラマを見 ていて、日本の武道はかっこいいなと思っていました。

小2年の時、友達の家の 近くに剣道の道場を見つけ、そこに通うことになりました。

そこは日本人がやっている道場ではなく、韓国人の先生の道場でした。 剣道は、柔道と違って海外であまり知られていません。日本は、韓国を占領した時、韓国で国民学校を建てて剣道を韓国人に教えました。それで、韓国人の多く は剣道を韓国の国技だと思っている人が多いです。日本の剣道が戦後アメリカ の G H Q から禁止された時、多くの韓国人移民が剣道を「コムド」と言ってア メリカに持ち込みました。そのため、現在のアメリカの剣道の道場の多くは韓国人によって開かれています。 僕が通い始めた道場も、韓国の「コムド」だったのですが、道場の先生は福岡で 7段を取得した方だったので、かなり日本風の剣道を教えていました。でも、 「面」は「モリ」、「胴」は「ホリ」、「小手」は「スンモ」と言い、「1、2、3」 の掛け声も韓国語で、お辞儀の仕方も韓国流のお辞儀でした。僕が唯一の日本人でしたが、皆にとても親切にしてもらいました。僕は、この韓国の道場で初段を取り、北米剣道大会にも何度も出場し、優勝もしました。ただ剣道は、柔道のよ うにしっかりとしたルールがないので、北米剣道大会に出場する選手は、道場に よって全く違う所作をします。時には、テコンドーと混ざったような飛び技を出 して点を取る選手もありました。

高校生になってアメリカからカナダのトロントに引っ越し、日本カルチャーセ ンターの道場に通うようになりました。指導をする先生は日本人の二世や三世 でした。バブル経済の時は、カナダに剣道の指導者も日本から沢山行き、中には 8 段の先生もいましたが、今はその先生たちはもう高齢となってあまり指導をしていません。最近は、日本から海外に進出する企業も留学生もなくなりました。

トロント大学では、現在、全校生徒 6 万人の 8 分の1が中国からの留学生ですが、日本人は殆どいません。トロントのカルチャーセンターでは、日本からの指導が殆どない状態で、稽古が進められます。参加するほとんとが初めて剣道をや る 30 代‐50 代の大人です。大学の剣道部では、大学に入って初めて剣道やる生徒がほとんどでした。大きな白人の大人が、ただ力任せに打ち込む練習を重ねます。

カナダのクラブに参加するときには、「どのような事故に会っても、自己責 任である」というサインが取られます。どんどん打ちかかるカナダ人と対戦する のは、時には大怪我に繋がります。僕はカナダの剣道大会でも優勝しましたが、祖母が「危なすぎる」と言ったこともあり、剣道から休憩をしようと思いました。

そんな中、夏休みに⾧崎大学で教鞭をとっている母のところに遊びに行った際、 母の同僚が馬場先生を紹介してくださいました。それまで日本の剣道道場を見たことがなかったので、「辞める前に日本の稽古を見てみたら?」ということで した。それで、雄心舘の稽古に参加させていただくことになりました。

⾧崎の道場で、まず驚いたのは、夏の最中にクーラーがないどころか、窓を締め 切って稽古をしていることでした。カナダでは、寒いほどにクーラーをかけているのが普通でした。

次に、道場に来ているのが小さい子供たちで、幼稚園から稽古を始めている子もいることです。カナダでは、剣道は一般に知られていないので、どんなに早くても始めるのが中学です。日本では、親の世代から剣道をやっているので、剣道が生活の一部になっている子供がいることに驚きました。

実際、稽古に参加させていただくと、剣道は単に打つだけではなく、さまざまな心 得、呼吸の仕方、や技があることを教えていただきました。このようなことは、 カナダでは全く聞くことができなかったことです。

今回は、コロナのために、1年半以上も⾧崎に滞在することになり、道場にもボ ツボツ通うことができ、馬場先生の道場から3段を取ることができました。

僕は オンラインでトロント大学を修了し、今月9月からアメリカのカリフォルニア 大学サンディエゴ校の大学院生になります。専攻するのはコンピューター(電 子)工学で、A I やプログラムなど、IT のシステムをデザインする仕事をします。カリフォルニアはアメリカでは最も日系人が多いところで、大学にも剣道部 があるので、できるだけ参加したいと思っています。

今回、⾧崎に⾧期滞在し、日本では剣道が柔道と並んで盛んな文化であることがわかり、嬉しかったです。残念なのは、この素晴らしい文化が海外に十分に伝わ っていないことです。

日本の文化を伝えるのは、日本人の責任だと思います。剣道が柔道のように国際的に認識され、正しく稽古されるように、これからもっと 日本からの指導者や留学生が海外に進出することを望んでいます。

令和3年9月 長崎県独自のコロナ緊急事態宣言が明けた直後、最後の有志での稽古後に

トロントからの手紙

馬場先生

先週金曜日に無事にアメリカに着き、大学の寮に入居いたしました。長崎では、思いかけず本当に長い間お世話になりました。お陰様で、剣道の楽しさが少し分かってきた気がします。こちらの大学は広く、大学の中で移動するために自転車を購入しました。大学の歩道は、神社周辺の車道より余程広いです。現在は、まだ一つだけしか対面授業がありませんが、そこで早速剣道をやっている学生と知り合いになりました。これから大学の剣道部に参加し、剣道を通じて色々な人と知り合えることを楽しみにしています。

五島功

(サンジエゴ剣道部)

http://www.sdkendo.com/

(カルフォルニア大学サンジエゴ(UCSD)工学部のビル)

(カルフォルニア大学サンジエゴ(UCSD)の図書館)

(UCSD水産学部の景色)

(大学院生の寮)

(サンジエゴの夕焼け)

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

雄心舘(少年剣道道場)のアバター 雄心舘(少年剣道道場) 長崎市で伝統的な習い事

長崎県長崎市の少年剣道「雄心舘」です。
雄心舘では剣道の技術だけでなく、学校教育では学べない日本の伝統文化を教えていきます。
剣道をすることで自国の文化を深く知り、それと並行して語学や計算を上達させていけば、諸外国の人達からも真の国際人として認められることでしょう。

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次