袴(はかま)の表に現れている襞(ひだ)は、前側が5本、後ろ側が1本あります。
※袴の前側は襞が5本(右足2本、左足3本)見える。
これは今から約三千年も昔の陰陽説という学問・文化の影響によるもので、それが今も私たちの剣道の中で生き続けているのです。
陰陽説では、偶数が陰で奇数が陽、人体の右側を陰、左側を陽【注】としていることから、袴の左側の陽のほうに奇数の3、右側の陰のほうに偶数の2を配して陰陽を整え、全体として3+2=5で奇数の陽を表面に出しています。【注】(太陽(南側)に向かって日の昇る東(左)が陽で、西(右)が陰。)
左右で襞の数が違うと動きのバランスが悪くなりそうですが、右の内側には3本目の襞があるので、両足とも同じ動きができるよう機能性が保たれています。
また、袴の前の5本の襞は、儒教でいう五常(仁・義・礼・智・信)をあらわすといわれています。
仁 ・・・ 思いやり、自分にきびしく、人を許す心。
義 ・・・ 正しく筋道を通す。人としての道を踏み外さない。
礼 ・・・ 礼儀作法や、社会生活のきまりを守ること。
智 ・・・ 正しい判断力・知恵。
信 ・・・ 信頼、誠実、嘘を言わない、信じる心。
袴をはくときは、これら五常を身につけるための修業が始まるのだと心に言い聞かせながら着用します。
さらに、5本の前襞については、五穀豊穣(ごこくほうじょう)を祈って五穀(米・麦・粟・豆・稗)を刻んで襞にしたともいわれています。
※袴の後ろ側は襞が1本見える。
袴の後ろ側の1本の襞は、二心(ふたごころ:裏切りの心)のなさを示しており、また、天つ神(アマツカミ)と国つ神(クニツカミ)が一つにまとまるという国譲り(くにゆずり)神話にちなんだ1本の襞であるともいわれています。
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